なぜ柏崎市は「水球のまち」になれたのか?
マイナースポーツ×地域発展(新潟県柏崎市の場合)

2017.06.10

なぜ柏崎市は「水球のまち」になれたのか?<br>マイナースポーツ×地域発展(新潟県柏崎市の場合)の写真

photo by Hideyuki KAMON

 

この数年、スポーツを通して地域発展やPRを行う自治体が増加してきました。特にマイナースポーツを利用して地元を盛り上げようという動きは加速する一方です。ここでは、水球を通して地域発展に成功した新潟県柏崎(かしわざき)市について紹介します。また柏崎市の事例から「マイナースポーツの町おこしに必要な要素」についても考えました。

 

●そもそも柏崎市とはどんな都市?

柏崎市は新潟県でも西側に位置し、日本海に面した都市です。周囲には上越市や長岡市があります。人口は約8.5万人(2017年5月現在)です。2011年の同じ時期の人口(約9.1万人)と比較するとこの6年間は緩やかにではありますが減少傾向にあります。

主な産業は「刈羽節成(かりわふしなり)きゅうり」、「つららなす」などを始め多数の農作物を栽培している農業や「マダイ」などの水産業といった一次産業です。自治体を挙げて企業誘致にも積極的に取り組んでいます。

ではなぜ、柏崎市で水球を用いた町おこしが行われるようになったのでしょうか。それは新潟国体で行われる水球を柏崎市に誘致しようとした背景に関係がありました。

 

●なぜ柏崎市で水球だったのか?

photo by Hideyuki KAMON

柏崎市の水球の歴史を調べていくと、柏崎市に最初の水球チームが出来たのは今から55年以上前の1962年です。きっかけは1964年の新潟国体にて水球大会の会場に柏崎市が選ばれたことでした。

柏崎市は会場の誘致に成功したものの、当時の市内高校には水球部がありませんでした。そのため市内の水泳部に在籍する中学生に協力してもらい、なんとか柏崎高校に水球チームを作ることに成功しました。全員が水球初心者でしたが、地元の協力や応援もあり約2年足らずで全国レベルのチームに成長します。

この出来事をきっかけに柏崎市に水球という競技が根付きました。脈々と受け継がれていく水球文化を絶やさないようにと次の手が打たれます。それが1991年に水球の普及と強化を目的としたジュニア選手育成チーム「柏崎アクアクラブ」の設立です。

2015年に同クラブは「ブルボンウォーターポロクラブ柏崎」と統合し、小学生から社会人までが所属する日本最大級の水球チームへと成長を果たします。このチームは国内でも有数のプロ水球チームです。水球日本代表を4名輩出しています。このように柏崎市は55年間もの時間をかけて、日本代表レベルの水球選手を育てるところまで体制を整えたのです。

 

●柏崎市が町おこしに成功した要因とは?

柏崎市が水球を通して町おこしに成功した要因は大きく2つあると考えます。

■地元企業や市民の協力による発展

1つ目は「自治体だけでなく、地元企業や市民を巻き込んだ連携が取れたこと」です。2015年に設立されたブルボンウォーターポロクラブ柏崎の命名権(ネーミングライツ)を取得したのは、お菓子で有名な株式会社ブルボン(以下、ブルボン)でした。ブルボンの本社は柏崎市にあります。

一般の人にも全国的な知名度を誇り、地元でも有数の企業であるブルボンに協力してもらうことで、地元はもちろん全国的にも名前を覚えてもらいやすくなりました。

さらにブルボンをはじめ柏崎市に本社を置く企業や、新潟県を中心に活動する企業ともスポンサー契約を結ぶことで、地元に密着した活動も行いやすくなります。これによって地元住民と選手たちとの交流回数も必然的に増加しました。これはチームを知ってもらいファンになってもらう上で大変重要なことです。

■水球に対する熱い思いのある指導者の参加

2つ目は「その競技を普及させようとする気持ちが強い人材の参加に成功したこと」です。人材の選定はその競技を普及させる上で重要になります。その人物が持つ、競技に対する思いや気持ちが選手たちにも伝わるからです。

今回ブルボンウォーターポロクラブ柏崎の設立にあたり尽力された青柳 勧(あおやぎ かん)ジェネラルマネージャーもその一人です。青柳氏は2000年代前半から柏崎市の小学生に対して水球の指導を行っていました。

2011年に行われた柏崎市のインタビューでは小学生に水球を続けてもらうために、「当時は、どうやって続けさせるか試行錯誤していましたが、今となってはその経験が生きていると思いますね。」と青柳氏は語っています。
(引用元:広報かしわざき 2011年1月5日号掲載記事 新春対談「スポーツ都市 柏崎の飛躍を目指して」から抜粋

https://www.city.kashiwazaki.lg.jp/sightseeing/kanko/shiru/wpolo/aoyagi/kz01.html)

このように「柏崎市で水球を普及させるためにどうしたら良いのか?」と常に考え、実行出来る人材がいたからこそ、今の水球発展の土台になっているのではないでしょうか。

 

●柏崎市のように発展するために必要なことは?

柏崎市の事例から「マイナースポーツで発展していくために必要な要素」を考えていくと、以下の2点にたどり着きました。

■自治体と複数の地元企業とスポーツ団体の3つが連携出来る状態にあること!

地域をあげてマイナースポーツを定着させようとした時に、自治体とスポーツ団体だけが頑張っても宣伝や資金繰り等の関係で3年先、5年先の進展は望めません。特に自治体がメインスポンサーの場合には。財政状況等による資金減額や打ち切りの不安が付きまといます。

複数の地元企業を巻き込むことでスポンサー問題はもちろん、企業を通して地元への地域貢献やファン活動が行いやすくなります。ファンとの交流を積極的に設けることは、地域にスポーツを定着させる上で大変重要です。交流を通して住民の目に何度も触れることで、「自分の地域にはこのようなスポーツがある」と知ってもらいやすくもなります。

■地元の人と一緒になって盛り上げようとしてくれる人材がいること!

地元の人と一緒にそのスポーツを盛り上げてくれる人材がいることも、スポーツを発展させる上で大切です。

その人材がどれだけ競技に熱意があるのか、本気なのかがマイナースポーツを進展させていく上では重要になります。それは熱意が周囲の人にも伝わるからです。その人が本気であればあるほど「地域を挙げてこのスポーツを応援しよう!」と人を、そして企業を動かすことが可能になります。

 

●まとめ

今回は新潟県柏崎市における水球を例に取り、「なぜ柏崎市が町おこしに成功したのか」について考えていきました。「自治体そして地元企業を通して地域住民を巻き込むこと」、「熱意のある人材が参加すること」でマイナースポーツであっても町おこしの起爆剤となる可能性があります。

これを機会に本拠地がある自治体や地元企業との関係性を見直してみませんか。少し視点を変えるだけでもスポーツが発展するためのヒントやきっかけが見える可能性が高まります。
(ライター:杉本 愛)

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