子どもと地域スポーツの関わり(3)

2017.09.08

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■兵庫県北部で地域スポーツの立ち上げに奔走する青年

 

 先週、兵庫県北部で陸上競技の地域スポーツクラブを立ち上げられた但馬アスリートクラブ代表の後藤知宏さんに取材することができた。まだ27歳とお若いながら、地元但馬のために陸上競技の普及とレベルアップに向けて第一歩を踏み出されたことに、尊敬の念を禁じ得ない。安定(就職)の道を選ぶことができたにも関わらず、リスクを背負ってクラブ運営に乗り出されたと知ったら、素直に応援したくなるのが人情というものである。思いもよらない困難や、悩みもたくさん出てくるだろうが、今後もそのご活躍を見守りたいと思う。ぜひクラブ運営を軌道に乗せた後、ふたたび取材させていただけたらと思う。

 

■最近、増えてきている総合型地域スポーツクラブとは?

コラム図2

今回のスポーツマネイジメントコラムでは、総合型地域スポーツクラブについて取り上げてみたいと思う。総合型地域スポーツクラブとは、「総合型」と名の付くとおり、

①多種目・・・たくさんの競技の中から自分の好きなスポーツを選択できる

②多世代・・・子供から大人、老人まで参加できる

③多目的・・・自分の競技レベルや目的に合わせて参加できる

というスポーツクラブの形態である。文部科学省が1995年から始めた計画で、2000年に「スポーツ振興基本計画」が策定され、2010年までに全国の市区町村に少なくともひとつは総合型のスポーツクラブを作ろうと掲げ、育成を進めていた。これは、日本人が週に1回以上スポーツする人が50%となることを目標として、進められた計画であった。(ちなみに私はこの50%の中に入っていない・・・。)実際には2010年7月時点で、全国1,750市区町村のうち、総合型地域スポーツクラブが誕生したのは71.4%でその数は3,114にのぼっている。

 

 

■財源の確保は?

 

 この総合型地域スポーツクラブを作ろうとしたら、それなりに資金が必要となる。もともと各市区町村の中には、地域に根差した少年サッカーや少年野球、ママさんバレーなど、独立系の地域スポーツクラブが存在していたと思われるが、それを統合してひとつの組織にしようと考えた場合、新たな人材や運動施設の確保、そして資金が必要となる。その財源はいったいどこにあるのか?

 

 

■2004年から2005年にかけて、急激にスポーツクラブが増加

コラム図1

 その資金は、姿形を変えつつ、国庫金や2000年からスタートしたtoto(スポーツ振興くじ)の収益から捻出されていた。総合型地域スポーツクラブ育成支援事業の滑り出しは国の税金を使い、後発部隊としてtotoの収益を使った助成金交付が2002年から始まり、2009年には文部科学省からtotoにその役割が移管されている。表から見てお分かりいただけると思うが、2004年から2005年にかけて総合型地域スポーツクラブの創設が急増しているのは、2004年~2008年の間に文部科学省委託事業として、21億円の大型支援を行ったことによる成果と思われる。

 

■toto(スポーツ振興くじ)

 

 そして現在の主な財源はtotoである。名前くらいは聞いたことのある方は多いと思う。このtotoは「スポーツ振興くじ」といって、一般に広く宝くじを販売して、その収益を総合型地域スポーツクラブの創設・活動・自立支援事業の財源にあてこんでいる。

先日、関西の地域クラブに取材させていただいた限りでは「totoの助成金はなかなか下りない」と嘆いていらしたが、土のグラウンドから芝生のグラウンドに変更したり、遠征に使用する車の購入やクラブハウスの整備のためなど、目的のはっきりした申請内容でれば、比較的申請は通りやすいようである。

 

 

■会費の徴収とその問題点

 

 では、助成金の力を借りてハード面をある程度整えたとして、次に日々の運営はどうなっているのだろうか?いわゆる運営のための資金である。総合型地域スポーツクラブの9割以上が会員から月会費を徴収しているが、このうち4割が会員から毎月101円~400円しか徴収していないのである。この月会費であれば、たとえ会員を100人集めたとしても月間1万円~4万円にしかならず、せいぜい、年末にお茶菓子を囲んで忘年会をする程度・・・?ハッキリ言って何もできない。そして、先日、関西の地域クラブでお聞きしたこととは裏腹に、地域クラブの半数以上が、自己財源率50%を割り込んでいるのである。つまり、総合型地域スポーツクラブは自分達の会費でクラブを運営するのではなく、50%以上を補助金や助成金に頼っているらしい。これはいったいどういうことなのであろう?

 

 

■意識改革の必要性

 

 スポーツすることに自分のお金をかけない考え方が浸透しているのかもしれないが(ひとりで行うジョギングやウォーキングなら分かる気もするが)整備された施設を利用し、運営してくれる人がいる快適な環境の中で、自分が楽しく身体を動かすのに、本当に国の補助が必要なのか?もう民主党の時代ではないけれど、私が国会議員なら事業仕分けしてしまいそうである。少人数の同好会レベルではなく「総合型地域スポーツクラブ」であるからには、日々の運営だけでも経済的に自立した体制が必要なのではないか?この、おんぶに抱っこ状態をご存知ない会員の方も多いことと思うが、運営資金の問題をぜひ知って、考え直すべきではないだろうか。自分の選択しているスポーツ種目の時間になったら出かけて行って、スポーツだけして帰って来るだけでは近い将来、総合型地域スポーツクラブの形態は先細るのではないであろうか。

 

 

■運営マネジャーの多くはボランティア

 

 総合型地域スポーツクラブに取材したいと思い、あちこちのクラブに電話をかけてみたが、どこも一度で電話がつながったことはなかった。おそらく担当者の方は別の仕事をされているのであろう。全国の総合型地域スポーツクラブでは、週4日以上運営に携わる専任マネジャーを配置しているクラブが2009年で18.9%事務方がいるクラブは25.9%である。このことから考えると、総合型地域スポーツクラブのみを仕事にしている人で、生計を立てられている人はほとんどいないように感じた。

 

 

■今後の総合型地域スポーツクラブの役割

 

ただ、不思議なケースも見た。総合型地域スポーツクラブのサイトに「英会話教室」の告知がしてあったのだ。あれ?ここはスポーツクラブのサイトでは?と思ったが、間違いなく開催されている。スポーツの枠を打ち破って、新しい分野のコミュニティが出てきたということなのだろうか。まだまだ総合型地域スポーツクラブの位置付けは不確定な部分が多いが、早期に経済的に自立し、新しい形でスポーツの普及を模索する必要があるように思った。

 

■外側から見ていてできることはないか?

総合型地域スポーツクラブの発生母体が市区町村か民間かによってカラーが全く違う、と改めて感じた。私達の役目はスポーツでご飯が食べられるようになる手だてをどれだけ情報発信できるかであると思っている。スポーツのすそ野が広がるのと同時に、スポーツが単なる楽しみで終わるのではなく、ビジネスとして立派に成長できるものであることを願ってやまない。

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