見えないフィジカルデータ

野球に比べると、サッカーは数値データが取りづらいスポーツといえます。
野球なら、日々の試合で打率・出塁率・打点・安打数・盗塁数など多数のデータが得られますが、サッカーではシュート本数・シュート成功率など、ごくわずかなデータが得られるのみで、選手のポジションや特徴によってはこのデータもあまり意味のあるものではありませんでした。
その一方で、サッカーには今まであまり数値化されてこなかった様々なフィジカルデータが存在していました。
スピード、走行距離、位置情報などです。
これらは、確かに存在するにも関わらず不明になっていた、見えないデータでした。
見えないデータが多いため、選手の実力については、選手の個々の動きを見て、各自で判断するほかありませんでした。
そんな状況も、今後は変わっていくかもしれません。
近年の、サッカー選手の能力を、IT技術を駆使して可視化する動きを追ってみました。
 
 

トラッキングシステムによるデータ取得

ChyronHego社のトラッキング(追跡)システム「TRACAB」では、スタジアムに専用のカメラを設置することで、リアルタイムにピッチ上のすべての動き（選手、ボール、審判）をデータ化することが可能となります。
 

 
https://www.datastadium.co.jp/service/tracking.html
 
これにより、選手の走行距離やスピード、ポジショニングといったデータを得ることができます。
このシステムは南アフリカW杯の公式トラッキングデータとして採用されたほか、プレミアリーグ、ブンデスリーガ、リーガ・エスパニョーラ等で採用されているとのこと。
実績は素晴らしいのですが、実施にあたって会場に多くのカメラをセットする必要があるなど、大手組織でなければ導入が難しい側面がありました。
この敷居の高さについて、現在は徐々に解消されつつあるようです。
 
 

ウェアラブルデバイスによるデータ取得

アディダス社は、「miCoach（マイコーチ）」というウェアラブルデバイスを使ったシステムを提供しています。
 

 
http://shop.adidas.jp/micoach/
 
ウェアラブルデバイスとは、身につけて持ち歩くことができる機器のことです。
選手がトレーニングウェアや小型端末を身につけてプレイすることで、選手のフィジカルデータを数値化して取得することが可能です。
「miCoachスピードセル」という小型デバイスを靴などにセットすることで、走行距離、最高スピード、時間別距離、時間別スピードなど、多くのデータを専用のアプリ・サイト上で確認できます。
 
http://shop.adidas.jp/micoach/speedcell/
 
国内では横浜F・マリノスなどが導入しています。
 
 

ほかにもこんなデータ取得

サッカーにおいて、意味があるのは選手の身体データだけでしょうか。
ボールを蹴るという、肝心な所は上記の仕組みでは取得出来ません。
これについても、データを得る方法が出てきています。
 

 
http://shop.adidas.jp/micoach/smartball/
 
アディダス社の「マイコーチ スマートボール」は、ボール自体がセンサーになったユニークな商品です。
このボールを使うことで、キックスピード、回転数、回転方向、インパクト位置、飛行軌道 など多種のデータが取得できるとのこと。
データの解析が難しそうですが、未来感のある面白い商品になっています。
 

 
http://www.catapultsports.com/jp/%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0/%E5%B1%8B%E5%A4%96/
 
Catapult社の「オプティムアイ G5」も面白い商品です。
ゴールキーパーは、他の選手と違って動きも少なく、上記のカメラやウェアラブルデバイスを使っても、あまりいいデータが取れないという問題がありました。
この商品はゴールキーパーに特化することで、ダイブ数（方向と強度）、ジャンプ、加速、減速、方向転換、ダイブからのリターンを数値化できるといいます。
ゴールキーパーの実力を、わかりやすく数値化できると面白そうです。
 
 

サッカーの未来

サッカーの見えないデータを可視化する取り組みは、今後も広がっていくと思われます。
この動きが加速することで、練習の効率化はもちろん、正当な評価を受けてこなかった選手が陽の目を浴びたり、サッカー観戦初心者でも選手の強みがよくわかり、より楽しんで観戦できるようになり、サッカーの未来の裾野はさらに広がっていくと思います。