サントリーサンバーズ(Vプレミアリーグ) チームサポートスタッフ、チームマネージャー 吉田譲氏 インタビュー

2017.06.23

サントリーサンバーズ(Vプレミアリーグ) チームサポートスタッフ、チームマネージャー 吉田譲氏 インタビューの写真

「やってみなはれ」精神をもとに
スポーツ界全体を盛り上げていきたい

2004年にVプレミアリーグのサントリーサンバーズに入団し、セッターとして活躍された吉田譲さん。2010年に退団後はチームスタッフに就任し、現在、チームと選手を支える立場で活躍されています。スポーツ選手のセカンドキャリアが課題となっているなか、今回は吉田さんにチームスタッフに就任された経緯や仕事内容、選手時代との違い、今後の目標などを伺いました。(聞き手:永広和也/執筆:高橋武男)

 

――吉田さんがチームスタッフに就任された経緯をお聞かせいただいてよろしいでしょうか。

 

引退したのは30歳の時ですが、まだまだ選手として活躍したいという思いはありました。ですが怪我の影響に加え、若手がどんどん入団してくる状況の中で、次の世代にバトンタッチする時期かなと考えたのが引退の理由です。

引退のタイミングでチームからマネージャーの仕事を打診してもらったのですが、最初は正直、自分に務まるのかなという葛藤や不安がありました。表舞台から身を引く複雑な思いはもちろん、何より選手としての経験しかなく、サポートの仕事がどういうものか分かりませんでしたから。

ですが、求められている限りはチームのために働こうと考え、第二の人生を歩む決断をしました。

 

――現在はどのような仕事をされているのでしょう。

チームサポートスタッフ(チーム内では事務局スタッフ)としてチーム運営やイベントの企画などを行うほか、チームの運営全体の統括、さらにはGM(ジェネラルマネジャー)のサポートもしています。

具体的には、チームの活動方針や予算、契約関係などをGMやスタッフと一緒に決めていくことなどです。運営全体の視点でいえば、チームや会社(サントリー)の価値をどうやって上げていくか、チームの活動を通じて社会にどうやって貢献していくかを考えています。

私たちの活動の成果は、観客数やファンクラブの会員数の増加といった定量的な数字で表される面も一部ではありますが、「価値の向上」という面では目に見えるわけではありません。その数値化できない定性的な評価をどうやって高めていくのかというのはやはり簡単ではありませんね。

普段の動きとしては、試合があるときは帯同しますし、それ以外は試合に向けた準備だったり、社内外の人たちに試合を観戦してもらえるよう動員の働きかけをしたり……さまざまな仕事をしています。いろんな軸で働いているのであくまでも一例ですが。

試合当日の動きとしては、たとえば受付に立って応援に来てくださった方々に挨拶をするのも私たちの大切な仕事です。お客様の中には昔からファンとして足を運んでくださっている方もいれば、新しくファンになってくださった方、あるいは初めて来られた方もいます。お客様一人ひとりに対する声掛けや受け答えの仕方ひとつでチームの印象が左右されかねないので、受付での対応は重要ですね。

 

――基本はバックでチームを支えながらも、いかにファンに喜んでもらえるかを考えられているんですね。

私たちチームスタッフはお客様にどうやって試合を観に来ていただくか、会場に足を運んでくださったお客様にどうやって楽しんでいただくかを常に考えています。いろんなスポーツがあるなかでバレーを選んでもらうためには魅力が必要ですから。

その意味では、サントリーサンバーズのホームゲームでのイベントはお陰様で好評です。選手入場の際にコートにプロジェクションマッピングを映し出したり、お酒も扱う会社としてビールの売り子販売を行ったりと、エンターテイメント性を重視した企画を打ち出しているからだと思っています。

プロジェクションマッピングはバレー界初の試みで、お客様に喜んでいただけたのはもちろん、他のチームや協会の方々にも興味を持ってもらいました。ビールの販売に関しては、バレーとお酒は結びつきは薄いのですが、応援しながらお酒を楽しめるとあって喜んでいただけましたね。

 

――お話を伺うと、やはり選手時代とは環境が大きく変わられたと感じます。チームスタッフとしてどのように仕事に向き合われているのか、どのような心がけをされているのか、改めて教えてもらっていいでしょうか。

選手時代はチームの勝利に集中していたので、正直、サポートの仕事はまったく見えていませんでした。勝つためにいかに練習し、コンディションをいかに整えるか――そうやって自分自身のことに集中できていたのも、いま思えばバックの支えがあったからこそです。チームスタッフになって、その感謝の念を最初に抱きましたね。

具体的な仕事でいえば、チームスタッフに転身以降、まずチームマネージャーを3年ほど担当しました。マネージャーの仕事ってほんと膨大にあるんです。だから最初の1年ほどは仕事をこなすことで精いっぱいでした。

それでもワンシーズンを経験すると全体の流れがつかめてきて、徐々に余裕が出てきました。たとえば開催地が違えば協会も異なり、協会によって運営の方法が違います。そうしたことも実際に体験して初めて理解できるんです。

チームマネージャーの3年目になると、チームや選手にとって最良の環境をどうすれば提供できるのか、試行錯誤するようになりましたね。たとえば試合会場から1分でも近いホテルを手配したり、最も負担の少ない移動手段をシミュレーションしたり。

あるいは落ち込んでいる選手がいれば、声をかけて元気づけるなどして、チームの士気を高めるような配慮を意識するようになりました。すべては選手に活躍してほしい、チームに勝ってほしい、その一念です。

現在は、前述したようにチームサポートスタッフとして働いています。この立場で目標としているのは、チーム目線ではズバリ優勝、スタッフ目線では満席の試合会場でプレーする選手を見ることです。

個人的にはビールが大好きなので、一番の目標でありモチベーションは、熱気あふれる最高の会場でチームが優勝し、祝杯をあげることですかね。サントリーサンバーズは、Vリーグでは2006-07年シーズン以降、優勝から遠ざかっているので、いまチーム一丸となって頂点を目指しています。

 

――スポーツ業界で働きたいという方や、すでに働いている若手の方々にぜひエールをお願いいたします。

スポーツ業界に限らないのですが、人との関わり方が大切だと思っています。お互い何らかの不信感を抱きながら仕事をすると組織の輪が乱れ、最終的に自分自身が困ることになります。信頼できる横の関係をいかに築けるかが重要ですね。

加えていえば、私と同じように選手からチームスタッフに転身した人は意識の持ち方も大事だと思います。トップアスリートは強い気持ちで練習や試合に臨んでいるものです。もちろん私自身も誰にも負けたくないと思ってプレーしてきたし、レギュラーを取るために競争心をむき出しにしてやっていました。ユニフォームを着てコートに立ち、名前を売ってなんぼの世界ですから。

その選手生活を終えてチームスタッフになったからには、表には出ないという立場を受け入れるとともに、縁の下の力持ちとしてチームと選手を支えるんだという心構えをいかに持てるかが重要です。

 

――ありがとうございます。最後に今後の目標をお聞かせください。

私はサントリーという会社、そしてサントリーサンバーズが大好きなんです。まだまだ会社とチームに恩返しができていませんから、今後もチームスタッフとしての役割を果たしていきます。

 

ご存知の方も多いと思いますが、サントリーには創業者の「やってみなはれ」精神が息づいています。創業者の鳥井信治郎は未知の分野に挑戦しようとして周囲から反対を受けるたび、この言葉を発して決してあきらめませんでした。

 

この「やってみなはれ」精神をもとに、新しいことにチャレンジしていくのが今後のひとつの目標です。具体的には、新たなイベントの企画を他に先駆けてチャレンジし、バレー界のみならずスポーツ界全体を盛り上げていきたいです。

 

2020年に東京オリンピックが開催されますが、オリンピックは一つに通過点に過ぎません。その先、何十年も存続するとともに、常に新しいことに挑戦し、新たな価値を提供していける魅力あるチームをつくっていきたいですね。

SPOSQU WEBの最新情報をお届けします。