常勝チームを育てる名将、勝つ秘訣は「目標の明確化」 大阪体育大学・ 女子ハンドボール部 監督 楠本 繁生

2017.08.11

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全国大会出場経験のなかった京都府立洛北高校・女子ハンドボール部の監督に就任し、指導者として率いた23年間で女子高校界初のインターハイ4連覇、2年連続高校3冠を達成。
2010年に母校の大阪体育大学に転身し、女子ハンドボール部をインカレ連覇に導いた。
そんな名将・楠本繁生氏が語る、勝つチームのつくり方とは――。

選手たちに目標を語らせて、「日本一になりたい」という言葉を引き出せたらチャンスですね。

 

「なんで横移動が小さい?」「なんでもっとパスを突きさせへんのや?」──大阪体育大学・女子ハンドボール部の練習中、楠本監督の厳しい言葉が飛ぶ。コートは緊張感に包まれ、選手は監督の言葉を受けて自身のプレーを見直す。

「ハンドボールは瞬時の状況判断が勝負を決するシビアなスポーツ。だからその瞬間に何を考えプレーしたのか、選手自身が理解していないといけません。なんで? と聞いて理由が返ってくれば良し、理由なくプレーしていれば、その選手が気づくまで何度でも繰り返す」と手厳しい。

楠本監督が練習時に重視するのは、選手自身に考えさせること。幾通りもの選択肢を思い描いた上でプレーできる選手と、その場の成り行きでしかプレーできない選手とでは判断力に格段の差が生まれ、シュート力、ディフェンス力に大きく影響する。

「試合になると戦況が目まぐるしく変わるので、自分の頭で考えないとパニックに陥るんです。だから練習でも常に実戦を意識し、試合で自立できる選手を育てるよう意識しています」

練習中、楠本監督が言葉を発しないタイミングがある。

「それは私が納得するプレーをしたとき。良いプレーだったかどうかは誰より選手自身がわかっているので、私はあえて何も言いません。褒めるのではなく、認める。私が無言のときは、その選手のプレーを認めた証なんです」

楠本監督は言わずと知れた女子ハンドボール界の名監督で、23年間率いた京都・洛北高校を全国で通算14度優勝する強豪校に育てあげた。2010年に転身した大体大では監督就任2年目からインカレ優勝という成績を叩き出している。

そんな同氏の指導者人生は、選手からの学びでスタートしたという。

「洛北高校の監督に就いた当初、意気込んで上から押しつけるような指導をしたんです。すると選手たちが私の指導に反発し、最初の合宿に部員60人中1人しか来なかった。そのとき、指導者の役割は選手の目標達成を側面でサポートすることだと教えられました」と振り返る。

その経験以降、指導方針をガラリと変えた。上から指示するのではなく、まず選手たちに目標を決めさせて、それを達成するための練習を重視するようになった。

「日本一になる秘訣は何かとよく聞かれるのですが、選手の口から日本一になりたいという言葉を引き出せたらチャンスですね。本気で頂点を目指す雰囲気がチームに生まれたら、やることはひとつ。日本一になるための課題、その課題を解決するために何をすべきかを洗い出し、最終目標から逆算して練習メニューを緻密に組み上げていきます」

洛北高校では当初、「京都で一番」を目標に据えた。そこで京都チャンピオンのチームに練習試合を申し込んで課題を見つけ、それを潰していく練習を実施。その結果、3年目に早くも京都大会で優勝した。その後も同様のやり方で近畿大会を制し、就任7年目にして「インターハイ優勝」という目標を達成した。
「日々の練習も大事ですが、やはり100回の練習より1回の実戦です。日本一になると叫ぶだけでは、その姿を具体的にイメージできません。日本一のチームと戦い、力の差を確認するとともに、目標と課題を明確にする。仮に10対30で負けたなら、20点を巻き返すために何をすべきか、選手に考えさせながら練習を積み上げていくのです」

大体大でも指導のベースは同じだが、監督に就いた当初、前任時代のやり方を一変した。
「とくにメスを入れたのは、伝統的に継承されてきていた規則や生活態度。掃除や練習の準備は学年問わず全員でやる、規則正しい生活をするなど、ひと言でいえば選手が自立して動けるような環境整備に力を入れました」

その成果はすでに述べた通りである。

大体大のハンドボール部出身の同氏は大学2年のとき、父親が倒れて一時は退学を決めたが、母親のサポートで卒業できた。

「その母が希望したのが教師だったんです。母を喜ばせるために教師になり、気づけば指導者として高校23年・大学5年の計28年。指導するチームが全国で優勝すると、母も喜んでくれますよ。これも親孝行の一つかな」

そんな同氏の指導者としての目標はインカレ3連覇。さらに2019年に熊本で開催される世界女子ハンドボール選手権をはじめ、日本代表に絡める選手を一人でも多く育てること。

「一方の個人としての目標は、ハンドボール界に恩返しをすることです。これまで先輩指導者や歴代の選手たちから学んできた経験や知識を、後世に伝えていきたいですね」

常勝軍団を育ててきた名将はいま、指導者としての新たな段階に差しかかりつつある。

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