Jリーグが取り組む六次産業の流通や活性化へ向けた活動とは?

2017.04.28

Jリーグが取り組む六次産業の流通や活性化へ向けた活動とは?の写真

photo by Antonio Fucito

 

この数年、Jリーグの各チームがおこなうファン活動や地域貢献に変化が現れています。それは農作物や魚などの資源獲得からその加工や販売までを一貫しておこなう「六次産業」の人たちとの連携が増えてきたことです。その結果、流通網や地域の活性化にも変化が見られはじめました。

ここでは六次産業の中でも「農業分野」における連携や取り組みにスポットを当てて紹介します。

 

■Jリーグが関わる「六次産業」とは?

Jリーグと六次産業の関わりについて紹介する前に、六次産業について簡単に説明します。六次産業というのは、一次産業である農業や林業、水産業を生業とする人たちが、加工や販売といった二次産業や三次産業までを一貫しておこなう産業のことです。こうした新しい産業のかたちが日本全国で広がりはじめています。

Jリーグと六次産業との関わり方については、政府も注目しています。2011年に農林水産省が主催した「六次産業化全国推進会議」において、過去の連携事例を紹介するために当時チェアマンを務めていた大東和美氏が招かれました。

その際に大東氏は、Jリーグと六次産業の関わりについて「全国に広がる『地域密着型』経営のJリーグクラブは地域の課題解決や地域活性化の為に活用できる強力な武器である。」と述べています(※1)。大東氏の発言の背景には、これまでJリーグの各クラブチームが培ってきた実績がありました。

 

■地域農産物のブランディング施策に貢献!

ここからは各クラブチームと地域による農業分野の連携事例を説明します。最初は鹿島アントラーズが茨城県鉾田(ほこた)市のトマト加工品のブランディングに参画した事例です。

鹿島アントラーズ(以下、アントラーズ)のホームタウンの一つである鉾田市は“農業環境に恵まれているにもかかわらず、農産物のPR活動が十分でないために知名度やブランドが向上しにくい”という課題を抱えていました。

鉾田市は全国でも有数の農業産地であり、メロン・さつまいも・みず菜・ごぼうは全国第1位、トマト・いちごは全国第5位の農業産出額を誇ります(※2)。農産物や地域農業をより活性化させるため、全国的にも高いブランド力を持つアントラーズにPR施策への参画を要望しました。鉾田市はアントラーズからチーム名を全国区にしたブランディング方法やその極意をつかみたかったのです。

アントラーズと連携したブランディング施策は、地元農家の人たちのモチベーション向上や新たな加工品の開発に追い風として働きました。その結果、1本5,000円の高級トマトジュース『ちゅう太郎』、『あまエール』の開発・販売につながりました。

 

■クラブスポンサーとホームタウンをつなぐ架け橋に!

アントラーズは高級トマトジュース「ちゅう太郎」をより多くの人に知ってもらうため、拡販・流通網の開拓にクラブスポンサーであるサントリーを巻き込むことを鉾田市に提案します。

この話題があがった2009年は、ちょうどサントリーが県立鹿島スタジアムで販売するビールの銘柄を「モルツ」から「ザ・プレミアム・モルツ」に変えたタイミングでした。アントラーズは2つの飲み物が持つ「高級感」をかけ合わせるカクテルを開発し、県立鹿島スタジアムで販売することを提案したのです。

3者が連携して開発したカクテルは「レッド愛」と名付けられ、スタジアムで発売されました。レッド愛の効果で鉾田市のちゅう太郎はブランド認知度が上がります。サントリーにとっては自社製品のアピールはもちろん、鉾田市と新たなビジネスのきっかけを得ることができました。

アントラーズはホームタウンとの連携にクラブスポンサーを巻き込むことにより、それぞれのブランド力の向上や流通網の開拓だけでなく、これまで接点がなかった両者をつなぐ架け橋としての役割を果たしたのです。

 

■協力しあうことで互いの課題を解決!

2つ目は北海道コンサドーレ札幌とJA北海道がそれぞれ抱える課題を連携により解決した事例です。

北海道コンサドーレ札幌(以下、コンサドーレ札幌)は、物理的な面から北海道全土へのチームブランド普及や地域活動に課題を抱えていました。それに対してJA北海道(以下、JA)は、子供への食育活動や若年層の農業離れ対策が課題でした。

両者の課題を解決するため、コンサドーレ札幌の選手を起用した「サッカー×食」がテーマのJAイベント、「コンサ・土・農園」(コンサドファーム)や「みんなのよい食JA親善大使」が開催されました。

結果としてJAは、コンサドーレ札幌の選手たちを通して子供や若者に「食事の大切さ」や「自分たちの地域の農業の大切さ」を伝えることに成功しました。コンサドーレ札幌も、JAのイベントを通して地域貢献をしながら効率よくチームブランドの宣伝をおこなっています。

 

■まとめ

ここではクラブチームが農業事業と連携をした事例について紹介しました。Jリーグをはじめ、クラブチームが自治体や各種事業と連携していくためには問題意識を常に持ち、解決方法を提案できる力が必要となってきます。場合によってはクラブスポンサーを巻き込む行動力も大切です。

積極的に地域や自治体のイベントに参加することで、「『何』が問題なのか?」、「クラブが協力できることは?」とアンテナを張っていくことも重要となってきます。
(ライター:杉本 愛)

 

【引用記事】
※1:農林水産省 「六次産業化全国推進会議」資料 Jリーグクラブと地域農業の連携を通じた地域活性化
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/sanki/6jika/suishinkaigi/pdf/j.pdf

※2:鉾田市 鉾田市農作物紹介
http://www.city.hokota.lg.jp/sankei/hokota_brand/products/

【参考記事】
・鹿島アントラーズ 公式Webサイト アントラーズオフィシャルビアカクテル「レッド愛」発売開始のお知らせ
http://so-net.ne.jp/antlers/news/game_info/2087

・北海道コンサドーレ札幌 公式Webサイト 2016コンサ・土・農園(コンサ・ド・ファーム)収穫祭 実施のお知らせ
http://www.consadole-sapporo.jp/news/20161021855/

・JA北海道中央会 北海道コンサドーレ札幌と全道各地で「みんなのよい食JA親善大使」と開催
http://www.ja-hokkaido.jp/member/newinformation/1716/

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