「スタイル」で惹き付ける!湘南ベルマーレのチームマネジメント術

2017.02.03

「スタイル」で惹き付ける!湘南ベルマーレのチームマネジメント術の写真

photo by Ik T

 

「スポーツは水物」

「スポーツはギャンブル性が強く融資できない」

あるスポーツチームの社長は、経営難を乗り越えるべく銀行に融資の相談に出向くも、ことごとく断られてしまった。融資を受けられない、そしてなぜギャンブルと同じ位置づけになってしまうのか、銀行の言葉を聞いて絶望感を味わった。

一般的に、スポーツチームの収入源はスポンサー収入、チケット収入、グッズ売上の3本柱で成り立っている。しかし、これらはチームの成績や人気選手の有無で大きく変わってしまう。またスポンサー収入は、チームの状態にかかわらず、クライアント企業の業績によって急遽打ち切りになるケースもある。かつてJリーグ・横浜フリューゲルスが消滅の憂き目にあったが、これはメインスポンサーの撤退が大きな理由だ。

まさにスポーツチームの売上は水物であり、予測するのは非常に困難である。そのため、信用を担保するのは難しい。銀行をはじめ、多くの人が持つ常識はある意味で正しい。

しかし、そんな常識にチャレンジするクラブがある。神奈川県の中西部に本拠地を置く、Jリーグ・湘南ベルマーレだ。現在、チームで会長を努めるのは眞壁潔氏。かつて社長としてチーム存続のため奔走し、先のように銀行に融資を断られた経験を持つ。その様子は著書「崖っぷち社長の挑戦」に描かれている。

 

名門クラブからの転落、独立採算の道をゆく

湘南ベルマーレのはじまりは藤和不動産サッカー部に遡る。OBには、あのセルジオ越後氏も名を連ねる、国内でも有数の名門チームだった。

その後、1994年にJリーグ入り。ベルマーレ平塚としてスタートし、あの中田英寿を擁して天皇杯を制す。1998年のフランスワールドカップではチームから3名の日本代表を輩出。まさにクラブは絶頂期を迎えつつあった。

しかし、そんなクラブに突如危機が訪れる。メインスポンサー・フジタが業績不振を理由に経営から撤退することを表明。クラブは一転して財政難に陥り、存続の危機に立たされた。

その後、社長として白羽の矢を立てられたのが真壁氏だった。危機に直面したクラブを救うべく、関係者は一丸となってクラブの存続・再建に奔走する。その努力が実り、湘南ベルマーレはJリーグでは希有な存在として、存在感を示すことに成功している。その結果、チームの観客動員数は安定し、スポンサーも徐々に増えてきているのだ。常勝チームでもなければ、人気のある主力選手はほぼ毎年のようにライバルへ引き抜かれているにもかかわらず、なぜ湘南ベルマーレはこのような存在感を示すことができたのだろうか。

 

ファンを惹きつける「スタイル」を構築

「スポーツはいかに負けるかが重要だ」

真壁氏とタッグを組み、強化部長として活躍した大倉氏は、かつてヨーロッパで受けた衝撃的な発言を忘れられない。

どんな強いチームでも、ずっと勝ち続けるのは不可能。またファン・ハール時代のバルセロナのように、勝ち続けてもファンに支持されないこともある。

それでは、クラブが人々から支持され、チームの経営を安定させるにはどうすれば良いのか。大倉氏は「我々の試合は、観に来てくれた人たちにとってエンターテイメントとして価値を持つ必要がある」と考えた。その上で、クラブの理念とスタイルを明確化し、どのようなサッカーを提供するか決断した。それが「攻撃的で走る意欲に満ち溢れた、アグレッシブで痛快なサッカー」、Jリーグで注目を集める「湘南スタイル」だ。

大倉氏は、その方針に基づき、選手の獲得・育成を進めた。一方、当てはまらない選手は主力選手であっても契約を更新しなかった。

その手法には多くの批判が集中した。ファンにしてみれば、チームの主力や生え抜きに対する容赦無い対応に納得がいかず、大倉氏を批判する横断幕を掲げたほどだ。

しかし、眞壁氏と大倉氏は確固たる方針のもと、チームの強化を推し進めた。そして、大倉氏が強化部長に就任してから5年、チームは念願のJ1復帰を果たすことになる。

 

ファンだけでなく、選手・スポンサーも惹きつける「湘南スタイル」

その後、J2に3度降格する憂き目に遭うも、湘南ベルマーレはJリーグで希少な「スタイル」を持つチームとして存在感を高め、ファンだけでなく選手・スポンサーも惹きつけることとなる。

2017年、湘南ベルマーレはJ2から再スタートを切る。

主力選手の引き抜きや、老朽化する本拠地の問題を抱える一方で、プラスの変化も起きている。

選手の獲得では、高校No.1 DFと呼び声高い、杉岡が加入。数多くのクラブと争奪戦の末、獲得に至った大物ルーキーだ。

またFC東京から秋元が復帰、柏レイソルからは若手有望株として成長著しい秋野が加入。J1のクラブでレギュラーとして出場する両選手がJ2のクラブに移籍するのは極めて異例だ。

そして、スポンサー企業には、なんと18年ぶりにフジタが戻ってくることが決定。これにはJリーグチェアマンも異例の声明を出すほどだった。

「湘南スタイル」の価値は徐々に高まっていると言えるだろう。

 

photo by  Takeshi KOUNO

 

勝ち負けを超えた、スポーツの「エンターテイメント」としての価値

スポーツチームの在り方は2つあるのではないだろうか。

一つは常に優勝争いができるチームを創ること。

そして、もう一つは勝ち負けを超越した、エンターテイメントを提供すること。

前者を構築するには、潤沢な資本が必要であり目指せるチームは限られる。

しかし、後者であれば、湘南ベルマーレのように理念とスタイルを明確にして、時間をかけ地道に取り組めば到達することができる。

 

ファンは勝ち負けだけを求めているのだろうか。

勝ち負け以前に、「今日スタジアムに行ってよかった!」といってもらえるように価値を提供するのが大事ではないだろうか。

そのために、地道で根気強くチームを創っていく必要がある。

湘南ベルマーレのように茨の道を歩むことになるかもしれない。しかし、その先にはファンだけでなく、選手、スポンサーも惹きつける「スタイル」を手に入れることができるはずだ。ベルマーレの事例はスポーツマネジメントにおいて重要な示唆を与えてくれる。

スポーツを通じてどんな価値を提供したいのか。この問いに対する解を導いたチームが、真の勝者となるのではないだろうか。

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