スポーツ選手の資産形成と確定申告

2017.03.01

スポーツ選手の資産形成と確定申告の写真

かつて税理士法人で働いていた経験から、私は色々な会社の帳簿の中身を詳しく見る機会を持っていた。帳簿には経営者の考え方や性格が色濃く反映され、ゴルフや飲み歩きが好きで、業績のわりに接待交際費の比率が大きい会社とか、ほとんど社用車の必要のない業態にもかかわらず、高級外車を会社の資産として持っている会社とか、あまり知りたくはない経営者の趣味嗜好が見えてしまうこともよくあった。

 

でも悪い話ばかりではない。その昔、担当顧客であったA社は、年商数百万円の頃から、月5万円ずつ定期預金をしていて、毎月の巡回監査で帳簿をチェックした際「今の事業規模で定期預金を続けるのはしんどそうだな。」と思うこともあった。従業員のいない社長さんおひとりの会社だったが、年商数百万円だと仕入原価や家賃などの諸経費を差し引くと、自分にお給料を出せるか出せないかギリギリのところだったのだ。が、いったん担当を離れ、その5年後に再び担当になった時、顧客A社の売上高は約6倍に増え、そして定期預金残高はキッチリ300万円増加していた。販路拡大と売上UPはもちろんだが、どんなことがあっても5年間、ずっと月5万円ずつ貯蓄し続けていたのである。すべては社長さんの地道な努力の結果だと思うが、毎月の定期的な貯蓄は銀行サイドに大きな信用を与え、日々の資金繰りに大きな余裕と安定をもたらしていた。

 

今回は個人事業主であるスポーツ選手に向けて「小規模企業共済」という金融商品を紹介してみたい。個人事業主(スポーツ選手)の場合、所属チームから受け取った競技収入(事業所得の売上高)から自分の退職金を支払うことはできない。支払っても別に構わないが、事業所得の経費としては認められない。

ところが、小規模企業共済の掛け金は、全額経費として認められ、毎月コツコツお金を貯蓄しながら(掛け金は1,000円~70,000円まで自由に設定できる)、所得税の節税をすることができ、引退時(個人事業主の廃業時)には、まとまったお金(退職金)を受け取ることができる、国の退職金積み立て制度なのである。サラリーマン向けには、こんなメリットのある制度はない。

 

小規模企業共済の主なメリット

・掛け金1,000円~70,000円の千円単位で無理なく掛けることができる。

・掛け金を掛けているときは全額所得控除、退職金として受け取る時は、退職所得控除があり、節税効果が高い。

 

ひとつ確定申告の書き方の事例を挙げて説明しよう。(申告書Bを使用)

スポーツ選手B氏(個人事業主)が、小規模企業共済に加入し、月3万円の掛け金をかけ始めたとしよう。1年経過すると36万円貯蓄したことになる。その状態で12月末を迎えた場合、「所得から差し引かれる金額・・・⑬小規模企業共済」という欄に忘れずに36万円を記入していただきたい。この小規模企業共済の所得控除は決してバカにできない額である。税率の高い高額所得者にとっては、最終的に支払う税額に大きな差が出てくるため、特にインパクトが大きくなるのだ。

小規模企業共済 記載例【PDF

 

ただ、落とし穴もある。小規模企業共済は長い年月、掛け金をかけ続けることを前提に作られた制度である。資金難で掛け金を支払い続けることができず、途中解約した場合など、解約時の理由によっては、掛けた金額が100%戻ってこない、元本割れを起こすケースもある。是非、加入時には下記URLから、加入シミュレーションを行っていただきたい。

 

小規模企業共済制度 加入シミュレーション

http://www.smrj.go.jp/skyosai1/cgi-bin/syo-sisan-calc.cgi

 

小規模企業共済は、スポーツ選手として現役引退を迎え、引退後は解説者や指導者として、はたまた全く異なる事業を行うことになったとしても、長く掛け金を支払い続けることが一番大切なのだ。昨年、いくつか条件が緩和され、小規模企業共済にはより入りやすくなってはいるが、この先ずっと掛け金を支払い続けられるか、よく考えてから加入したい。

 

日々の練習に忙しいスポーツ選手にとっては、お金の細かいことはついつい後回しになりがちなのではないかと思う。全てのスポーツ選手に言えることであるが、引退後、懐の寂しい思いをしないよう、早いうちに準備しておくことをお勧めしたい。

 

そして、忙しいから、よく分からないからといって決して他人まかせにしてはいけない。おかしな投資話を持ちかけられたり、サイドビジネスに手を出して多額の借金を作ってしまったり・・・、不幸な話は巷にあふれ返っている。スポーツ選手には意外と世間知らずな人が多いのか、甘い話に乗って痛い目に遭うことが多いように思う。海の向こう、NBA選手の60%が引退後5年以内に破産しているという話や、日本でも元プロ野球選手の転落の人生などが報じられるたび、スポーツ選手本人には、お金に対してもっともっと勉強してほしいと思う。

SPOSQU WEBの最新情報をお届けします。